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畠山裕介の『人と話の交差点』

 

人材育成の新聞『ヤアーッ』より

 

「人と話の交差点 304」  畠山裕介

 

乃木を守った児玉源太郎

 

-ナンバー2(31)-

 

日露戦争旅順の攻防。

第三軍司令官乃木希典は窮していた。二〇三高地に要塞を構えたロシア軍に歯が立たない。それどころか兵力の遂次投入という愚策を重ねた。数万という尊い人命を無駄死にさせた。

司馬遼太郎はこの人には珍しく、語気を強めて「乃木は愚将」と断じた。

旅順港に潜むロシア艦隊は、勝敗の帰趨を決する分岐点。北上するバルチック艦隊と旅順艦隊にはさみ撃ちされたら一巻の終わり。日本艦隊は全滅する。

日本陸軍は新たに満州軍司令部を設置する。大山巌〈いわお〉が総司令官に児玉源太郎が総参謀長に着任した。

当時児玉は内務大臣。総理大臣に次ぐ地位にあった。敬愛する郷土の先輩かつ友人の乃木の窮地に、火中の栗を拾う覚悟をした。みずから降格人事を志願したのだ。そして満州軍総参謀長として、前線へ赴いた。非常の人事である。

児玉は乃木と会う。「おぬしの第三軍司令官たる指揮権をわしに、一時借用させてくれぬか」と頼む。

絶妙な言い回しであった。乃木はことの重大さを知らぬまま、「よかろう」と快諾した。

児玉は戦況の膠着を見通していた。巨大な二八サンチ榴弾砲をわずか一日で戦場に移動させた。その重砲をロシア軍要塞に打ち込んだ。

同時に歩兵による突撃を敢行した。難攻不落と思えたロシア軍の要塞群を、わずか半日間で陥落させた。

さらに二〇三高地越えに旅順港内のロシア艦隊に二八サンチ砲の猛攻をかけた。ロシア艦隊は壊滅した。

余談だが、児玉は乃木に指揮権を「一時借用させてくれぬか」と頼む。まるでその辺りのマッチでも借りるような軽さである。その詐欺的な軽さに、乃木はあっさり騙される。

じつはその時、児玉のズボンのポケットには一枚の紙切れがあった。総司令官大山巌の命令書である。そこには〝指揮権を児玉に譲れ〟と書いてあった。それを出せばどうなるか。乃木は司令官失格として生涯、屈辱と不名誉を背負い続けることになる。

児玉は畏友のキャリアを絶対に傷つけまいと大芝居を打ったのである。

児玉と乃木の間には、上司と部下の関係はない。だが乃木の名誉を守り切った児玉の情誼は、ナンバー2に必須の資質である。

旅順での勝利後、児玉は天下に公言した。「乃木がいなかったら、旅順は落ちていなかった」と。そのひとことが、乃木を「軍神」に祭り上げた。

児玉は心労のあまりすでに病死しており、それを知らない。