染谷和巳の『経営管理講座』
人材育成の新聞『ヤアーッ』より
「経営管理講座 417」 染谷和巳
中国に魚は売りません
お客様が無理を言ってくる。「できない」と断らず努力し工夫して解決する。お客様は喜び満足し契りを一層深くする。お客様第一主義の妙味である。「お前んとこの商品は欠陥の可能性があるから取引き全面中止だ」と言ってきたらどうする。欠陥は言い掛かりに過ぎないとしたらどうする。
全魚連は海洋放出に反対した
大阪府知事吉村洋文が「買わないというなら売らなければいい」とSNSで言った。
賛成である。
政府や自民党は「強く抗議する。撤廃を求める」と怒っているような態度を見せるが、本当に怒っているなら「そっちが買わないというなら、こっちは売らないよ。さようなら」ではないか。
日本の水産物輸出は四〇%が中国向けである。海産物でうまいものは中国は上海ガニくらいしかない。日本のあわび、ほたて貝、なまこ、ひらめは中国の高級料理店の看板メニューであり、お金持ちは自国産には目もくれず、日本産に舌鼓を打つ。
また輸出の五四%を占めるほたて貝は中国の水産会社が加工し、冷凍貝柱として大半をアメリカに輸出している。
八月二十四日の処理水放出に合わせて「世界の海洋環境の汚染者」と非難し、中国が日本産水産物の全面輸入禁止を発表した。
中国政府がどんな情報を国民に流したのか知らないが、塩の買い溜めが起き、関係のない自国産の魚介まで売れなくなった。
二〇二〇年、武漢ウイルス発生源の再調査を求めたオーストラリアに対し、石炭の輸入を規制し、大麦、ワインに高関税を課して輸出できないようにした。
二〇二二年、中国は害虫を理由に台湾のパイナップル、魚のハタ、最近はマンゴーの輸入を規制した。
アメリカは半導体などの中国への輸出を規制。これに対抗し中国はガリウムなどのレアアース(希少金属)のアメリカ輸出を規制した。
習近平の常套手段である。悪く言われたり、不利になったりすると、相手を困らせて改心させるためにこういう手を使う。
相手は困るが自分のほうも困る。今まで使っていたもの、食べていたものを遮断するのだから関係者は代替えを求めて四苦八苦する。
オーストラリアの良質安価な石炭を使えなくなった中国の火力発電所は質が悪くて高い自国産石炭を使い、発電量が落ち停電が頻発した。習近平はオーストラリア石炭の輸入規制を撤廃した。
習近平は海産物の輸入禁止の発表に続いて、中国人の日本への旅行を解禁した。日本へ行って魚でも貝でも存分に食べてこいということである。
独裁政権も〝民意〟を気にする。国民の政府に対する反抗心、敵対心が強くなればまた易姓革命が起こり、政権の座を追われる。
そんなことにならないように国民の不満鬱憤を沈めなればならない。
万里長城など各所旧跡の国内旅行は貧しい人の楽しみ。通勤のように大挙して連なって歩いて何が楽しい。「私は行かない」と中流以上の人は苦々しい思い。
そこで日本、韓国、インド、アメリカ、オーストラリア、イギリス、ドイツへの団体旅行を解禁した。
日本大好きの中国人がどっと押し寄せる。ホテル、小売店はホクホク顔で迎える。
中国は魚介類以外に日本の十県の農作物などの食品の輸入を規制している。日本に来る中国人旅行者は食べ物を持ち込めない。空港や港で検査され、害虫やばい菌が侵入するおそれがある食物は全て没収される。やはり日本の魚や農産物を食べるしかない。
「水産物を輸入禁止するなら、わが国は中国からの旅行者を入国禁止にする」と総理大臣が言えばいい。
ホテルやデパートには少し我慢してもらう。中国なしでいく。他国の旅行者を歓迎し増やしてその穴を埋めればいい。
漁業者代表の全漁連も情けない。風評被害がこわいからと処理水放出反対を頑固に唱えていた。
処理水放出を決めたのは三年前の菅義偉(すがよしひで)総理大臣である。その時から反対を叫び続け、放出の時期を遅らせた。
タンクが満杯になりこれ以上待てなくなり、人の話をよく聞く現在の民主的総理大臣が、漁業保償金を十分出すから言うことを聞いてくれとお願いして、ようやく八月二十四日、放出が始まった。
漁業者は国の海で魚をとっている。国の許可を得て魚をとって商売する権利を与えられている。その権利を剥奪するというなら国に歯向かってもいいが、「汚染魚は売れない、我々は飢え死にする」という非科学的な被害者意識の悲観論で、国の言うことに従わないのは、中国よりもタチが悪い。
敵に媚びれば敵につけ込まれる
福島以外の全国各地の中国へ輸出している漁業者がとばっちりを食らった。
推測だが国内の魚市場に卸すより、中国に売るほうが儲かるのだろう。高値高級品は日本では料亭くらいしか買ってくれないから魚市場での売り値は安くなる。ならばまとめて中国へ、となる。
中国に工場や店を出している会社、取り引きしている日本企業はごまんとある。儲かるからである。儲かれば相手が誰であれ商売をする。
中国は日本の領土を奪おうとしている。地下資源を盗み取ろうとしている。連日軍艦と戦闘機で威嚇している。国民に歴史を捏造して反日教育をしている。毒性ゼロの処理水を核汚染水と呼び、その海水で育った魚は毒があるから食べられないとデマを流し、日本への憎しみを煽っている。
習近平の常套の報復である。故安倍総理が作った日米豪印のクアッドや最近の米日韓の結託といった反中国の動きに対抗する一つの手段として「汚染水毒魚、輸入禁止」の愚挙に出た。話し合いの余地はない。
八月末に中国訪問を公表していた公明党の山口代表ら国会議員は自分たちの力で関係を改善できると踏んでいたのであろう。八月二十四日の処理水放出後、水産物の輸入禁止を知った段階で、中国に「訪問中止」を申し渡すべきであった。
中国が機先を制し二十六日に「時期がよくないから来ないでくれ」と言ってきた。公明党は訪中延期を発表した。
何ともばつの悪い話である。相手に言われてから中止するのは、先に自分から中止を発表するのとでは印象が百八十度違う。
中国に媚びる姿勢が見え見えである。敵に媚びれば敵がつけ込んでくる。こっちがさらに不利になる。こんな〝戦いの常識〟この言葉が嫌いなら〝外交の駆け引き〟すら解っていない。
日本の漁業組合の「放出反対」も進出企業や公明党同様、お得意様の中国に阿(おもね)る心が裏側にあると思えてならない。
中国は、世界一うまい魚介が食べられない不満を解消するため、近い将来「福島以外の魚はオーケー」などと姑息な解禁案を出してくる。これを「よかった!」と喜ぶのを〝媚中〟というのだ。
「禁止したのはお宅のほうでしょ。もうお宅には一切売りません」と断る。「では」と中国は日本をもっと困らせる制裁や規制を言ってくる。「強く抗議する」「WTO(世界貿易機構)に提訴する」と言っても敵には馬耳東風。「ではこちらはこの手で行きます」と堂々と受けて立つ。
故安倍元総理の盟友である麻生副総理が言った「戦う覚悟」とはこういうことである。
小兵でも媚びず恐れず立向う
昭和五十四年(一九七九)から四十年間に亘り、日本は中国にODA(政府開発援助)で三兆六六〇〇億円を拠出した。中国はこの金で橋、道路を作り病院を建てた。
中国は日本の外務省に「感謝の意」を伝えているが、国民には「日本に大変お世話になっている」「日本は恩人」と一切伝えていない。新聞テレビは相変わらず反日のニュースを流している。
中国はアフリカなど後進国を取り込むために二〇〇八年からODAを始め、現在世界一の支援国になっている。その経済大国に日本は二〇二〇年までODAの援助金を出し続けた。安倍元総理がストップをかけなければ、今でも出し続けているだろう。
なぜ日本は中国に弱腰なのか。
政官界や実業界、マスコミの要所は中国系や中国寄りの人に既に占領されているのではないか。
もしそうでないならまだ立て直せる。権謀術数とウソ八百の国に対して毅然たる態度を示す。
福沢諭吉曰く、
「独立の気力なき者は必ず人に依頼す、人に依頼する者は必ず人を恐る、人を恐るる者は人にへつらうものなり」。
国と祖先に誇りを持って、先人は戦後の危機を乗り越え血を流して国を守った。小兵だが大国を恐れてへつらうことはなかった。日本が今あるのはそのおかげである。