染谷昌克の『経営管理講座』
人材育成の新聞『ヤアーッ』より
「経営管理講座 430」 染谷昌克
増えてくる甘ちゃん族
まるで転職しなきゃ損、のように思わせる時代。新入社員の中には、半年と持たずに会社を去る人も少なくない。会社に入るも様々なことに我慢がきかない、我慢をする気もない人が増えている気がする。思うように採用できない時代ではあるが、縁あって入社したならば、上手に育ててあげたい。
花田君が三ヵ月で転職した理由
花田君は広告代理店に入社した。希望したスポーツ部門に配属された。スポーツ観戦が趣味の花田君、やる気満々だった。しかし、入社三ヵ月でこの会社を辞めた。
花田君がお気に召さなかったのは、毎朝ゴミ箱のゴミを外に出さなくてはならないこと。
「このレターパック、ポストに投函して」「休憩するから、人数分のコーヒー買ってきて」と、上司や先輩が当たり前のように雑用をやらせることだった。
社風も体育会系で、先輩が大きい顔をし、新人は小さくなっているしかなかった。
締め切り近くになると、帰りが二〇時を過ぎることもあった。大好きなスポーツ観戦の時間が取れなくなった。
現在、花田君は私の通っているスポーツジムで働いている。私の担当になり、少し経った頃右の話をしてくれたのだ。
花田君は明るくて、話し好きなので、私はいい人が担当になったと思ったのだが。
花田君に別メニューの効果や料金を聞くと「わからないので、調べておきます」という。忘れてしまうのか連絡がこない。次に会った時、同じことを聞くと「忘れていました。調べます」と。約束を守らない。頼んだことをしてくれない。間違える。入社して半年近く経つのに何か聞くと「わかりません」の連発。仕事をする気がないのか、仕事を覚えようとしない。
〝ボクは一人前〟の甘ちゃん
人は環境に順応する。寒くなれば緊張して表情が引き締まる。しかし長年かかって身についた習慣は一朝一夕には変えられない。
花田君は会社に勤めるまで二十数年間、ゴミの処理をしたことがなかった。自分の部屋のゴミの処理も母親にやってもらっていた。
両親は子供に雑用をさせない。たまに何かを頼む時は過分の小遣いをあげた。自室に籠り、ゲームと携帯との時間をたっぷり使い、のびのびと育った。
花田君は大事に(甘やかされて)育てられた。勉強はできなかったが、スポーツ好きの明るくていい子に育ったと両親は思っていた。
花田君は会社を辞めたいきさつを話す時、自分に問題があるという口振りではなかった。
「私は毎朝ゴミ処理をするために入社したのではない。それに一人前の大人を顎で使う先輩の態度は許せない」という。
「そう思うでしょう」と私に同意を求めた。
もちろん花田君も会社が学校と違うことは知っている。学校は授業料を払うが会社は給料を貰う。学生の時のように自由気ままは通用しない。上司の言うことはきく。規則を守る。これくらいの心構えは持っていた。
しかし花田君の不満が消えることはなかった。これはプライドが傷つけられたからである。
花田君のプライドとは何か。家庭や学校でずっと大事にされてきたために身についた〝ボクは一人前の立派な大人〟意識。
理由なく尊重されてきたために培われてきた「甘ちゃん」精神である。
このプライド(自尊心)は会社の中では通用しない。
仕事の手順や技術をマスターしていない新人が、仕事に慣れる間、雑用をさせられるのは当たり前である。掃除やお使い、コピー取りや荷物運びをしないで何をするというのか。
このような不満は、プライドというより、我慢のきかない甘ちゃんのワガママそのもの。
不満を持つのは仕方ない。それが人に話せば笑われる子供っぽいことだと、知るべきであった。会社や上司を「ひどい」と否定するまえに、「もしかして」と、自分の考え方や感じ方を振り返ってみるべきである。
花田君的若者の持つ特性
若者の中には花田君に似た考え方や価値観を持っている人が増えている。共通する一般的特性を挙げてみると、
①納得しないと動かない
自分の価値観、考え方に反することは理路整然と説得しても、情に訴えても受け入れない。
②忍耐・我慢が苦手
「石の上にも三年」など、時代遅れ。困難・苦労は嫌い。遭遇したら逃げればいい。
③移り気
気に入らなければすぐ辞める。ためらい迷うことはない。
④全てが決まっていることを望む
就業規則や諸規定、仕事の進め方などきちんと決まっていて、その通り行われている会社を望む。決まっていないと不安。行われていないことは追及する。
⑤既に完成していることを望む
自分で創っていくのは苦手。会社が完成させたもので、プログラムどおり進めばスイスイ行けることを望んでいる。
⑥なんでもハラスメント
自分が気に食わないことは、ハラスメントじゃなかろうかと相手に非を打つ。自分のことは省みない。
以上が特性。ゲーム・インターネット・SNSの影響が強い。
クリックひとつで違う世界に行ける。ゲームはプログラムの道筋を追って遊ぶ。いろいろ工夫はされているが、答えは決まっている。それ以外の答えは出ない。プログラムに沿って進めば勝ち、プログラムから外れれば負ける。結果経過が気に食わなければ、簡単にリセットできる。
三十年前と比べ、現代の食は豊かになり、なんでも簡単に手に入り疑似体験もできる。我慢するという能力を退化させた。
これらの影響で、今の若い人は昔の日本人にはなかった特性を身につけつつある。花田君はこうした特性を持つ人なのだ。
最初は一気に一遍に教える
会社は新人に「仕事や人に慣れるまで」と雑用や簡単な仕事をさせ放置してはならない。
新人には最初の一ヵ月がきわめて大事。後の運命を決める。
はじめに何をするか。人間の脳は入れたものしか出すことができない。会社の常識を教えてあげること。
「社員としてどうあるべきか。どう考えなにをすべきか」を具体的に細部に亘って教えるべし。一つひとつ指導し、それに沿って動ける環境を作っていく。
頭の中にすべてを詰め込んでしまう。咀嚼しきれなくても全部インプットする。
金の卵は上手に孵化(ふか)する。
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