染谷昌克の『経営管理講座』
人材育成の新聞『ヤアーッ』より
「経営管理講座 440」 染谷昌克
黒ひげ危機一発
一九七五年に玩具メーカーのトミーから発売された「黒ひげ危機一発」ゲーム。ご存じの方も多いだろう。勝ち負けのルールが数回変わっている珍しいゲームでもある。今年の七月にもルール変更があった。世代によって興味の対象や、楽しさを感じるポイントが違うことが理由のようだ…
世代によって感じ方が違う
遊び方は簡単。敵に捕まり樽の中で縛られている仲間の海賊を救出するため、短剣を刺しながら樽の中でロープを切って助け出すという設定。「飛び出させた人が勝ち」となるゲーム。
五十年の間に、勝ち負けのルールが数回変わっている。発売当初は、「飛び出させた人が勝ち」となるゲームだった。
一九七六年、フジテレビのクイズ番組『クイズ・ドレミファドン』の放送初回から採用され、一般に多く知られるようになった。「飛び出させたらボーナス得点没収」というルール。視聴率の高い番組だったので「飛び出させた人の負け」というイメージが世間に広まった。
その後、正式ルールも一九七九年に「遊ぶ人が任意で勝ち負けを決める」となった時期を経て、一九九五年に「飛び出させたほうが負け」となった。販売時期によって製品に付いている説明書のルールが変わっている。
二〇二五年七月に、発売五〇周年を記念して、「飛び出したら〝勝ち〟」にすることが発表された。
このルールは、世代によって好みが分かれるようだ。情報番組で、世代別に脳波検査をしながら黒ひげで遊ぶ実験をしていた。
十代二十代三十代四十代五十代の五グループ。・好き度・ストレス度・興味度を測定。飛んだら勝ちルールと飛んだら負けルールを対比する。
結果は顕著だった。十代二十代の若い世代は、飛んだら勝ち派。四十代五十代は飛んだら負け派。三十代は半々。
飛んだら負けルールで、ゲームを始めると皆ストレス度が高くなる。年長世代はストレスの値よりも、好き度や興味度が増していく。若い世代は、ストレス度が増し興味度が薄れていきストレスだけが突出する。
飛んだら勝ちルールではどうか。年長世代は時間が経つにつれストレス度も興味度も下がり、傍観者になる。若い世代はストレス度が下がり興味度がグングン上がった。
年長者の飛んだら負けは、ストレスをドキドキワクワクと感じるようだ。仲間同士の盛り上がりと、仲間が負けなかったことに喜びを露わにする集団になっていた。
年少者の飛んだら勝ちも盛り上がっていたが、仲間と楽しむというより、個人で楽しんでいる感じだった。
教育環境の違いが作っている
一緒に観ていた三名の中学高校の先生たちが教えてくれた。「世代による義務教育の方向性の違いが顕著。若い世代は、負けるのは嫌だけどみんなで一緒に負けることには抵抗がない。むしろ安心感さえ持つ。みんな一緒教育ですね。それでいて結束とか団結という力は弱い」
集団で頑張るより、「自分が損しないように」行動する傾向が強い。グループ活動でも、リーダーばかりが頑張る。「他人任せ」の構造。
平等・公平を重視しすぎて、役割分担やリーダーシップが育たない。グループ内の「差」や「突出」を避ける指導が、まとまりの核を失わせている。
勝敗を曖昧にする傾向と、議論や意見対立を避ける指導により、ぶつかり合って乗り越える経験が乏しい。
掃除当番や係活動も、責任感より「やらされ感」が強い。生徒が結果に責任を持たないよう、教師が先回りして処理するケースが多い。「責任を持たせない」教育。
「失敗できない」「ミスすると怒られる」ため、誰も前に出ようとしない。自分たちで何とかする力が育たず、仲間と支え合う経験が完全に不足している。と、熱弁していた。
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個性、自主性、人権が学校教育の基礎である。特に小中学校は画一化、強制、差別と不平等を忌み嫌う。
号令による一糸乱れぬ行進は画一的だからノー。服装身だしなみは自由だから強制してはならない。運動会の徒競走の一等、二等、三等は差別と不平等になるからやめよう。
こうした教育を充分に受けた人が社会に出てくる。会社へ入ってくる。あまり個性があるようには見えない。あまり自主性があるようにも思えない。
能力が低いわけではない。弱いのは「自分は組織の一員」という結束力である。
会社は組織であり、組織は所属する人の結束によって成り立つ。会社は社長を中心に社員がひとつにまとまった時に力を発揮する。会社は同志意識で結ばれた運命共同体である。
したがって社員に、会社の考え方と方針を理解させる。目標達成に向けて仲間と力を合わせ、協力し合い、助け合っていく人に育てなければならない。
何よりもまず、運命共同体の一員という意識をしっかりと植えつけねばならない。
結束力を強化しよう
中小企業(特に小規模企業)の飛躍・成長には、様々な力が必要。
この〝力〟は資金や技術の力も含まれるが、それらは脇役であり力の主役は「結束力」である。若い会社、少数精鋭の会社、代替わりした会社は特にそう。
社長を中心に連日顔を突き合わせて仕事をする。時を忘れ労を惜しまず働く。よく話し、よく笑い、一緒に食い一緒に飲んで数年。そこに強い結束ができる。社長と社員の強い結束、これが成長企業に共通する。
日本で中小企業が成長し、基盤が弱い中小企業がイキイキと活動しているのは、この結束のおかげである。
結束とは分かり合える仲間の結びつきである。学生が友達を大事にするのも、主婦が趣味の教室に熱心に通うのも、互いに共通の言語で語り合えるからである。分かり合える仲間といることの喜びを知っているからである。
私たちが毎日会社へ通い、会社の方針に従って力を尽くすのは、単に経済的理由からだけではない。そこに参加して分かり合える仲間といることに無上の喜びを感じるからである。
日本的経営の特質である結束を軽視してはならない。
個の尊重や平等・権利重視の学校教育では、将来を担う若者たちがかわいそうである。
それを救うのも企業の使命。共に悩み共に喜び過ごした年月がこれを可能にする。
中小企業のトップは結束に全力を注ぐことにより飛躍の時を迎えることができるのだ。
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