染谷昌克の『経営管理講座』
人材育成の新聞『ヤアーッ』より
「経営管理講座 435」 染谷昌克
人材は〝人財〟か〝人罪〟か
〝人材〟才能があって役に立つ人。有能な人物。人間中心の経営をする企業には必要不可欠。その人材、組織の害になる「人罪」ただいるだけの「人在」そして組織の宝といえる優秀な「人財」。 社長!「うちには人材がいないから」と嘆くなかれ。誰もが、どのジンザイにもなり得るのだ。
状況環境で求められる能力
会田雄次の名著「アーロン収容所」に、捕虜収容所での人材は戦場での人材と全く違うという記述がある。
敵を前にした戦場では、自分の命を顧みず突撃する〝勇気のある兵士〟が人材である。上官はこの兵士を高く買い、他に模範として見習わせる。
捕虜収容所では、この勇気ある兵士の影は薄くなる。どこにいるのかわからないおとなしい存在になる。
代わって要領がよく抜け目ない小才の利く兵が活躍する。イギリス人と交渉して待遇改善を勝ち取り、捕虜集団を導く。上官もこの人の言うことに従う。収容所での人材は営業能力、事務能力のある人である。
このように人材は集団の質によって異なる。
現場に来たことのない社長がたまたま来て「A君は人材だね」という。部長は内心「何が人材なものか。人当たりはいいが、Aは人の見ていないところで仕事の手抜きをする」と思う。
たまに来た社長にAは愛想よくし、要領よく自分の仕事ぶりをアピールした。それで社長はAをなかなかの社員だと思った。
毎度のことだが社長は思い込むと人の意見を聞かない。Aを直参にする。数カ月してAの本質がわかり、失望し、捨てる。またこれをやるに決まっていると部長は思った。
このように人によっても〝人材〟の判断が違ってくる。
人材確保と人員確保は別
大企業、大組織に長くいた人が中小企業に入ってきても〝使い物にならない〟という経営者がいる。この言い方は正確ではない。
大企業でも個々の会社によって性質が異なる。中には小企業的(野武士のように粗削りで行動的な集団)な社風の大企業もあり、この会社の社員は中小企業に移っても優れた戦力になる。
中小企業の中にも官僚体質のところがあり、この会社の社員は他の中小企業に移ってもうまくいかない。
ひとつの会社に長くいた人は、その会社の色に染まっているので、他の会社に移ってもなかなか新しい色に合わせることができない。行動のテンポや思考パターンが習慣になっていて、変え難いのである。
柔軟性と順応性のある人は短期間で新しい色に馴染むことができるが、それは余程の人。普通の人はそれができずいつまでも浮いた〝人在〟のままである。
これは会社を変わらなくてもいえる。
会社の体質は成長とともに変わるのだ。
規模が小さい創業期に〝人材〟だった人が、大規模になった今は活躍の場を見い出せずにいるということがある。十年前は目立たなかった人がいい仕事をして経営陣に加わることもある。
ひとつの会社の中でも、長い間には有能が無能になったり、〝使い物にならない〟が重要な人材になったりする。
会社はその成長過程によって、社員に求めるものが変わる。
したがって社員は、会社が今どの時期であるかを知り、会社が自分に何を求めているかを知り、会社が期待する働きをするべきである。
これができる人が〝有能〟であり〝人材〟である。これができない人はたとえ一時期有能であっても、次には無能のレッテルを貼られる。
では会社は今、あなたに何を求めているか。会社はどの時期にありどんな体質なのか。
企業の成長度合いは
一、創業期
会社を作って活動を始めても、すぐ利益は出ない。黒字を出すまでに三年、五年とかかる。
この時期は、身を粉にして一心不乱に働く人が人材である。強引でも何でも多く売る人。時間を忘れ、仕事に没頭する人。「給料が安い」「休みが少ない」といった不満を我慢できる人。言われたことを忠実に早く正確に行う人が人材である。
「働き方改革が…」とか「就業規則を整備しろ」と守りの仕事に力を入れる人。今はまだその時期ではない。前だけを見て攻撃一本槍でいく人が人材である。
二、軌道に乗る
利益が出るようになる。今まで給料もろくに貰わず、会社に全てを注ぎ込んで貯えもない社長。税金などとても払う気になれないが、そこは法人の義務。税理士や会計士に頼んで経理をきちんとする。
この時期は一、に挙げた人も人材であるが、それ以外に計算能力のある人。経費節減(会社の金、物、時間を大事に使う)を心掛ける人。ただがむしゃらに突進するのではなく、計画的に効率よく仕事を進める人が人材になる。商品の開発や新しい顧客の開拓などができる人、つまりアイデア力、思考力に優れた人も人材である。
三、調和
社員数が増えてくる。創業期の気心知れた人だけの集団ではなくなっている。トップのやり方考え方に同調しない人も増える。社内でハラスメント問題が出てくる。突然、組合ができる場合もある。
この時期は労務管理に力を入れる。総務・人事にしっかりとした人を据える。
ここでは経営者と同じ意識でものを考え発言する人が新たに人材になる。説得力のある人。根回しの上手い人。人心懐柔にたけた人も人材。仕事能力と実績に加え、人間味があって社員から慕われる人。それでいて裏表なく忠誠心の厚い人が人材である。
四、成熟期
経営が安定期に入ると、派閥抗争や幹部同士の確執が起きる。どろどろした内輪もめが延々と続くこともある。またトップの交替、幹部陣の脱退や入れ替え、会社の分裂などで結末を迎えることもある。幹部クラスが仕事そっちのけで足の引っ張り合い、潰し合いをするのだから会社がおかしくなるのは当然。
この時期は、専門的な知識や技術のある人が人材である。職場の問題発見・問題解決ができる人、仕事の工夫改善ができる人が人材である。
素早い正確な判断ができる人。公平な評価ができる人。人づき合いのいい人。人間関係をうまくやっていくことのできる人。そう、トップの補佐をできる人が人材である。
以上が求める人材の分類である。有能で役に立つ人は置かれた環境に支配されている。
大きなトラブルなく経営できているのは組織に人材が揃っているから。
会社の成長度に合わせ成長する人は常に「人材」であり続ける。人財は人材育成によって育てることができる。
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